峠よもやま話

 5.峠地名考(1)    更新 2020.12.30   


旧碓氷峠

地名は土地と人間との関係で生まれる。人間と全然関係のない土地に地名はない。人間が土地と何らかの関係が生じた時、それを呼ぶ必要上、地名をつける。

命名の仕方は、その土地の特徴である地形・地物・位置・方向・遠近・大小・高低などの自然条件に基づくが、人間がその土地を利用するようになると、そこの産物、利用する資源、開発者、所有者などの権利関係などによっても地名がつけられたり、改変されたりするようになる。また人の移動によって前住地の名前を移住先の地名にしたり、土地の分合によって小字地名が大地域に拡大されたり、2つ3つの地名の名前をひとつづつ取って合併地名としたりすることもある。

(地名語源辞典、山中襄太郎著より)


こうしてできた地名、日本では漢字で表記されている。しかし、日本語と漢字の元になった中国語?とはもともと違う言語で、表音語であった日本語を表記するために随や唐の時代に中国から漢字を導入し、音が似通った漢字を当て字にして表記するようになった。これが万葉仮名(万葉集、宇須比坂:うすひざか、古事記や日本書紀では碓日坂=碓氷峠)である。その後、平仮名の発明により、仮名交じりになったものが現在につながる文字の日本語である。しかし、一般民衆は明治時代になるまで、文盲が多く、表音語段階でとどまっていた。そんな民衆が言い慣らわしてきた地名であるから、日本の地名は漢字だけでなく、表音の意味も考えねばならないのである。

これらを踏まえて、次に具体的な命名パターンを検証してみよう。
なお分類方法などは「峠のエンサイクロペディア」永谷誠宏著を引用している。

旧碓氷峠


 ■峠の道路状況

峠越えで人々が最も感ずるのは距離や道の状態であろう。それは峠の名前にまでなってしまう。中には峠に到達した安堵感、喜びを表した命名もある。

■距離に関するもの :八丁峠、八十里越
■曲折に関するもの :四十八曲峠四十曲峠十曲峠七曲峠
■到達した喜び系   :極楽峠安楽越

安楽越


風伝峠(熊野古道)  ■峠にあるもの、見えるもの

峠の道路状況と似通うが、峠にあるものや見えるものを峠名にすることは非常に多い。特に峠越えにおける水場の所在は大変重要なので、水に関する命名もある。また峠が領地などの境界であることを示す棒杭を名前としたものもある。

■水に関するもの    :清水峠、水呑峠水無峠
■風に関するもの    :風伝峠風越峠風早峠
■国が見えるもの    :国見峠三国峠
■富士山が見える    :富士見峠
■茶屋、鳥屋(捕獲小屋)茶屋峠鳥屋峠トヤ峠小鳥峠
■境界線を示す杭    :分杭峠傍示峠坊地峠
風伝峠


 ■山岳宗教

森羅万象に神が宿る(アニミズム)という考え方は原始宗教の基本であり、我が国でも杖を立てて神の降臨を願う民俗があったと考えられる。そして時代は移り、峠は山岳信仰の山(ご神体)を拝む遙拝所となっていった。最初は持ち寄った花や手折った木枝などを山の神への供物としたが、そのうち神社にならって鳥居を建立した所が増えてきた。

■杖を立てた      :杖植峠杖突峠杖ノ神峠
■杖の転じたもの   :花立峠矢立峠卒塔婆峠
■卒塔婆          :卒塔婆峠ソトバ峠
■富士山遙拝      :富士見峠
■花などを供物にした :花折峠折草峠栃折峠枝折峠
■鳥居に関するもの  :鳥居峠(御岳遙拝)鳥居峠(四阿山遥拝)
鳥居峠(真田)


 ■神仏

峠は境であることから祈りの場所であった。祈りの場所に置かれたものは賽の神や道祖神、地蔵、観音などであった。また神社・仏閣の名前が峠名になったところもある。

■賽の神   :賽之神峠さいの神峠
■地蔵菩薩  :地蔵峠(開田高原)地蔵峠(中央構造線)
■観音菩薩  :観音峠(岐阜)観音峠(京都)
■お寺(特に曹洞宗)禅定寺峠(京都)雲照寺峠大寧寺峠(山口)保福寺峠(長野)宝慶寺峠(福井)
■遙拝     :伊勢神峠(愛知)鳥居ヶ乢(岡山)
地蔵峠(開田高原)



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