峠越えツーリングの魅力              

     
           (雑誌ニューサイクリング2004年9月号No.487掲載) 2004.10.11更新

前書き

 自転車雑誌の老舗ニューサイクリングから「ツーリングプランあれこれ・特集」に原稿を依頼された。ニューサイクリングからは2000年5月号の「峠でコーヒーをいれよう」特集以来であるため、引き受けることにした。

本文

日本を旅しようとすれば峠を避けることはできません。それは日本武尊(やまとたけるのみこと)や西行の時代からの理(ことわり)です。日本の自然に親しみ、歴史に彩られた街道を散策するとき、峠は乗り越えるべき障害ではなく、新しい発見をさせてくれるフィールドに変わることでしょう。



・峠は下りより登りの方が楽しい(行動)
皆さんは峠越えというと、登った後の下りが楽しいという方がほとんどかと思います。でも登りと下りに費やす時間を比較してみてください。登りは下りの倍以上時間がかかっていることと思います。このツーリングをするために皆さんは時間やお金を捻出して来ています。そんな貴重な時間を苦しい(と思う)ものに使っていいのでしょうか?断じてノーですね。常識的に考えると峠登りは時間の浪費なのです。


では自転車ツーリングの魅力は何でしょう?私はつまるところ、非日常性を楽しむことだと思っています。仕事(学校)や家庭といった日常生活での憂さを晴らすために非日常性に浸り込む。それが気晴らしとか気分転換になります。


緊張と緩和・・・故桂枝雀師匠がよく使われていた言葉ですが、落語も緊張したストーリー展開の中でポッとしたボケ(緩和)をかます。それが笑いにつながるわけですね。人間いつも緊張ばかりではいい仕事はできません。メリハリをつけることが明日への活力につながるのです。


根来坂峠

ツーリングではふだん見られない景色を見たり、山野に入り込んだりするのが、非日常性を楽しむ最も良い方法です。そして時間の流れもできるだけゆったりした方がよりリラックスできます。登りと下りでは常用スピードからいってもどちらがリラックスできるかは、もうおわかりですね。

スピードが速いと人間、色々なものが目に入らなくなります。野に咲く花や石仏、歴史的な文化遺産に自然の造形等々。登りなら気が付いて観察したり写真を撮るのは簡単ですが、下りでは仮に気が付いたとしても止まりたくないと思うのではありませんか?せっかくツーリングに来ているのに通過してしまうのは勿体ないことです。

根来坂峠、福井・滋賀県境


それほど峠登りはツーリングでは美味しい時間なのです。そして下りよりはるかに長時間を費やす登りを楽しまなくては損なのです。皆さん、「峠は下りより登りが楽しい」このように意識の転換を図ることによって、ツーリングの醍醐味・非日常性を堪能してほしいものです。



・プランニング
とはいうものの、私も元は峠を越えることそのものに取り憑かれていた時代もありました。ツーリングで走ったコースを地図に塗ってひとり悦にいる。誰でもあると思います。峠も越えたことが征服欲を満足させ、ここも越えた、あそこも越えた。さらにいくつ越えたというような状態になっていきます。

そのうち峠をいくつか越えるためにコースをあれこれでっちあげるようになりますが、最近の交通事情では大概の平野部の道は片側1車線で、車が自転車に幅寄せしてくるような危険な道ばかりです。峠道ならセンターラインもなく、車も少ないような道が多いので非日常性を楽しむには、もってこいです。

しかし地図に載っている近場の峠を行き尽くすと、未踏の峠は遠方にしか残っておりません。お金と時間が自由にできない勤め人にとって、遠方に行く機会は限られています。

そうなるとできるだけ効率的に峠をゲットする必要に迫られますので、絨毯爆撃やローラーをかけるようにその地域の峠を網羅するコースをプランニングしなければなりません。

また近場では見落としている峠や文献にしか出てこないような峠などを古い地図や各県の教育委員会が出している「歴史の道調査報告書」などを参考にターゲットにリストアップする作業が必要になってきます。


          歴史の道調査報告書
これは案外楽しい作業でして、旧街道も地図上で辿れますし、思わぬ峠が発見できます。それにこれから行こうとする峠の歴史的・地理的背景などもあらかじめ知ることができて、ターゲットに対する思い入れも深まります。



・記録(反省)
昔は走った後に記録などはしておりませんでした。写真を撮ってもアルバムには少し貼っただけ。ですからツーリングの細かい部分については今では思い出すこともできません。5年前からインターネット上に「峠コレクション」なるレポートを載せるようになってからは、走った後、記録したり調べたりする習慣がついてきました。もちろん素人の手慰みですから初めは大昔の「ニューサイ」にあった「峠特集」程度の内容でした。


ところが、よそさまのサイトで微に入り細に入る紹介などを参考にさせてもらううちに、私も知り得たことについて細かい記述や考察を加えるようになり、載せる写真も大幅に増えてきました。

何気なく撮った写真でも後から色々な発見をすることも多く(今年の7月に行った信州上田市郊外の廃校はどこかで見た風景だと思っていたが、帰ってから調べると「学校の怪談4」のロケ地だったことがわかりました)、こういう習慣がなければ気づかなかったかもしれません。

          「学校の怪談4」のロケ地
もちろん記録していくことによる自分史的な資料にもなりますし、事故やミスをしたときの反省材料にもなります。また記録作業を通じて旅を反芻している自分に気づくこともあります。


以上、プラン(計画)・ドゥー(実行)・シー(反省)に分類して、峠越えツーリングの魅力をひもといてみました。途中15年ほどブランクがある私などより皆様がたの方がよほど経験がおありでしょうから、いまさら書く必要もないことでしょうが、自力で走る自転車ツーリングでは立てた計画も行動も自己責任であることは言うまでもありません。そして危険な状況ではあっさり引き返す勇気も必要です。それが非日常性を長く楽しめる秘訣ではないかと思っています。



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