峠でコーヒー (雑誌ニューサイクリング5月号NO.431掲載) 2005.12.4更新


前書き

ニューサイクリングの2000年5月号に投稿した私の原稿です。そもそも「峠でコーヒーをいれよう」特集は門岡さんのニューサイクリング私設応援団に原稿依頼がきま したので。私設応援団がらみで6名の投稿が掲載されました。

峠でコーヒー


 コーヒーとのつき合いは随分と長い。中学3年の頃、受験勉強だか何だかで味を覚えて以来だからもう三十年以上ということになる。今では一日五杯以上のヘビードランカー。眠気覚ましどころか睡眠薬代わりになるほどだから、もはや中毒といっても良い。

 ところが学生時代にはサイクリングに行ってもコーヒーはあまり飲まなかった。当時は今ほど手軽に本格的なコーヒーが飲めるほど豆も出回っていなかったし、器具も高かった。さすがに親はサイホンだのドリップだのを揃えて、私が帰省するときには有名コーヒー店の豆を買って帰るように指示したものである。でも学生のサイクリングクラブでは食べることと走ることが最優先で嗜好品はたばこくらいなもの。だから「峠で一服」の方が題材も多いし、格好いいシーンもあるのだ。だいいち湯を沸かそうにも火器といえばガソリンを加圧して使うホエブスくらいしかなかったし、ガスストーブは高かった。

 しかし4年前に15年ぶりのサイクリング復活を果たしてみると世の中は変わっていた。復活のお手伝いをしてくれたニフティ(パソコン通信)のオフラインミーティングでお仲間と一緒に走ってみると、お昼時には皆ガスストーブを持参して、ラーメンを食したりコーヒーを作ったりしている。当然暖かい物やコーヒーは羨ましい。これはひとつ研究してみようかとサイクリングに携行できそうなものを試行錯誤するうちにコーヒー中毒患者が峠でコーヒーするようになるのに時間はかからなかった。


 復活して実質2年目のこと。廃線跡を辿るオフ会があり、草軽電気鉄道の探索に行った。持っていったのは初代火器ダイケントップの携帯燃料。ガスストーブに較べると火力は半分くらいのもの。しかしコンビニ弁当とインスタント味噌汁が定番の私にはこれで充分。ラーメンを作るほどの火力はなくてもコップ一杯のお湯を沸かすのなら弁当を食べているうちに沸くというものである。ドリップタイプのコーヒーだって使い捨てタイプがあるので、お湯を沸かせば本格的なコーヒーが楽しめる。いい世の中になったものである。

 廃鉄のオフ会が終わった翌日、十石峠とぶどう峠をやっつけに行った。五月というのに寒くて十石峠を群馬県側に下る途中でコーヒータイムをしてしまった。ところがハンガーノックの気があったらしく、ぶどう峠への登り返しで寒気が耐え難くなって昼飯にしたら綺麗さっぱり寒気は飛んでいってしまった。 
初代火器ダイケントップ


悪いことに、この火器は熱がこもるので消火してから撤収するのに時間がかかる。沸くのも遅いのに仕舞うのにも時間がかかっては立つ瀬がない。これはまずいなあと思いながらも、その年は岐阜県明宝村にある山中峠の水芭蕉群落など峠のコーヒーのお供はこの携帯燃料を使っていた。


 翌年の正月、愛知あれオフなる神社参拝と火器初めオフを期に軽めのガスストーブを使うことにした。火力は強力、ストレスなく湯を沸かせるのでカップヌードルなどの暖かい食事も可能になった。寒い時期、デイバッグを持って山サイに行くときなどには申し分のない選択である。

 ところが好事魔多しとは良く言ったもの。滋賀県の粟柄越や愛知万博会場予定地、海上の森(かいしょ)などの山サイで皆のペースについていけないことがあった。もともと押しや担ぎは嫌いである。リュックの重みが嫌で登山をしなかったのに加え、十年前には椎間板ヘルニアの手術をしたので、できるだけ左右対称の姿勢になるよう気も使っている。その点ガスストーブやクッカーは重いし、嵩張るから駄目かなと思い始めた。だいいち自販機があればその方が手っ取り早い。そんなこんなで一年ほどは峠でコーヒーを沸かさないようになってしまった。
ガスストーブ&チタンコッヘル


 冬場のウェアは火器同様に嵩張るので困りものである。昨夏、冬場の軽量ウェアをオーダーしがてら登山の店へショッピングに行ったときのこと、携燃のエスビットを見つけたので買うことにした。

 これはご存じのように一口サイズの燃料と折り畳みコンロがセットになっていて手のひらサイズになる代物である。私はこれに取っ手が折り畳み式になったシェラカップを組み合わせて使ってみることにした。二つ合わせてもボトルカバー程度の大きさにしかならないし、馬鹿軽いので常備しても苦にならない。火力は冬場でも燃料を通常の一・五倍にすればコップ一杯の水を沸騰させるのに大して時間はかからない。しかも撤収が素早いのが嬉しい。
エスビットとチタンシェラカップの折り畳みコンビ


 こうなると根がコーヒー好きだけに昼時は必ずエスビットしたくなる。年末から峠行きといえば殆どコーヒーを沸かしていた。滋賀県多賀大社東方のミノガ峠、養老の勝地峠、長篠南方の吉川峠。またリトアニアで多くのユダヤ人を救った杉原知畝の故郷八百津の前坂峠へ三月に行ったとき(冒頭の写真)には雪が残っていて楽しかった。勿論、峠はホームページにコレクションを並べているほど好きだし、コーヒー中毒患者だったら峠でエスビットするっきゃないでしょ。


後日談


左がタイガー、右がテルモス
自転車で走るのに携行品は軽く嵩張らないようにしたいと思う。しかし本格コーヒーなどというとドリップタイプの製品などの携行も必要になるし、ゴミも発生する。それに私はフィールドでお湯がわき上がるまで待つのが辛いと思うほどせっかちだった(--;) また休日を使って遠くまで来てるのに飲食に時間をかけたくない。

これらの理由で食べ物はコンビニ食、コーヒーは小さなポットに入れて携行するように変えてきた。ポットは暑い時季ならアイスコーヒーもOKなのでけっこう重宝している。また冬場の山中で暖かい食べ物が欲しいときはお湯を携行しカップヌードルという手も使う。

そんなお供が左のポット達である。右は登山の世界で定評があるテルモス(490ml)。軽さとスマートさに惹かれて買ったが、口が幅広のせいか液漏れするのと保温性が一般のものに較べると劣るのでちょっと問題あり。左は子供が小さいときに使っていたタイガー(540ml)のもので、液漏れなし保温性良好で、このふたつを適宜使い分けている。



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