鹿児島県さつま町平川−出水市武本
鹿児島県さつま町平川と出水市武本の間にある県道397号・鶴田定之段線の峠である。 紫尾という地名は峠の麓付近と紫尾山(上宮山)に見られる。ウイキの「紫尾山」によると 継体天皇の時代に空覚という僧侶が夢のお告げを得て山に登った際に、山頂から麓へ向かって紫の雲がたなびく様子を見て名付けたとする説。但し、継体天皇の時代に仏教は日本へ伝わっていなかったことから時代を疑問視する見方もある。 蓁の使者除福が皇帝に命ぜられ不死の薬を探すためにここを訪れた際、紫の紐を献じたことから名付けられたとする説。 があるそうだが、どちらも漢字の字面で後世に想像されたものだろう。蓁の時代に漢字など伝わってなかったろうし、継体天皇の頃ってのが既に胡散臭い。だから発音から考えると「しび」で知っているのは寺院などの屋根に載っている「鴟尾」とかマグロの別魚「シビ(鮪)」くらいしかわからない。 |
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国道327号線から県道398号線(信号右折)へ |
国道398号線から紫尾温泉方面、県道398号線に入る。紫尾虎居線と書いてある。虎居、「とらい」と読むようだ。郵便局もあるくらいの地名で、人間がいなかった氷河時代ならいざしらず日本に虎が居たわけはないし、家庭教師のトライであるはずもないだろう。九州あたりのロケーションから考えると渡来人の「とらい」ぐらいが妥当なような気がする。
県道398号・紫尾虎居線 |
しかし、この看板シャレてみると「日々トライせん、うわむき」と読める。なんて縁起の良い看板だろう!そうやって考えると紫尾(しび)はヒビの転じたものと言えなくもない。関東や東北だったら「し」と「ひ」の発音が微妙である。「ひび」が「しび」に転じても不思議はない。九州でもそのくらいの転はアリエールのではないだろうか。
次に「ヒビ」である。ヒビとは漁民が枝の付いた竹などを海中に立て並べて1区域を囲み入り口から入った魚は出ることができないようにしたもの(地名語源辞典、山中襄太著)だそうだ。日比谷とか渋谷はここから来てるという。山の名前が「ヒビ」では説得力はないけれど・・・
しばらく進むと県道397号線に入った。これが峠道である。
県道397号線に入る |
397号線に入ると紫尾温泉も近い。温泉湯元にあるのが紫尾神社(の下宮)。とすると、ご神体は上宮がある紫尾山であろう。反対側の出水市にも紫尾神社があるし。
紫尾温泉が近い | |
紫尾神社 | 横にある温泉旅館 |
温泉を過ぎると本格的な峠道になる。屈曲は激しくない代わりに勾配はそこそこある。森の中だった道がやがて尾根筋に出る。そこまでが長かった。展望はところどころ効いたが、もともと平地でないので、らしいものは見えない。
本格的な峠道になる | |
展望が効く中腹 | 尾根筋 |
この尾根筋伝いに行って峠に到着した。峠手前には林道の分岐があった。また峠の境界線看板の根本に石碑があった。宮之城街道分岐点とある。宮之城(みやのじょう)は川内川中流地域、要するにこの峠へ登ってきた虎居などがある辺り。国鉄時代には宮之城線があったという(゚o゚) 宮之城線は山田峠の麓付近も通っていたらしい。そんな地域の中心だから街道だってあったのだろう。
峠手前に林道の分岐 | 峠(さつま町側) |
紫尾峠(出水市側) | 峠の石碑 |
峠から下る。下り道から現国道328号線が見える。ちょうどトンネルから出てきた辺りである。出水市側は国道に合流するまでが短いので現国道の様子が時々眺められる。
下り | 現国道のトンネル付近 |
下り道 | |
現国道 | 現国道と下り道 |
定ノ段辺りになると傾斜は少しゆるくなる。NTTドコモの基地局も出現。文明の香りがしてくる(^^;)
出水市定之段 | NTT |
紫尾北基地局 | 麓に近い |
そしてやっと国道と合流。けっこうこの旧道は長かった。それでも国道のトンネルは昭和50年作だからか348mの長さだった。
現国道との合流点 | 国道と旧道との分岐点 |
紫尾隧道 |
ところで、冒頭の紫尾の語源だが、高校のわが同級生の推論によると、
紫尾山の向こうに加紫久利神社がある。 薩摩二之宮だそうだ。 読み方は「かしくり」。
で、出水市の酒造のブログにこんな一節が・・
>出水市は東に加紫久利山(矢筈岳)、南は紫尾山、西に笠山、北に不知火海と自然豊かな土地です
「加紫」「久利」「紫尾」と並べたら、それはもう「樫」「栗」「椎」・・照葉樹林そのままじゃないですか。
「椎」を仮名で書くと「シヒ」 この「ヒ」は「fi」フィに近い音で、奈良期には「pi」ピと
発音されていたのは国語学では有名な話。
また、戦前のころのおばあさん(明治以前の生まれ)が「バビブベボ」を「パピプペポ」に置き換える。つまり「バスに乗って」を「パスに乗って」と発音するのも、有名な話で。ビとピは発音で混乱すると考えれば「シビ」は「シピ」と同音で、「シフィ」に転じ「シヒ」と同じだと言える。薩摩弁の特徴の二音節の名詞の後ろの音節の子音がなくなって、あたかも詰音のように聞こえる、あれで、「シビ」は(中央のヒトには)「シッ〇ィ」としか聞こえず
「シミ」をあてたと思える。
以上の論拠から
「紫尾」は「椎」・・地名の由来は「椎の茂る山」 と結論する。
確かに照葉樹林の「椎」はツブラジイの金華山のように日本を代表する木だし、私の当て推量より間違いなかろうと思う。